(注:ラビアレR15)
乱れた呼吸の隙間から、酸素を求めて口を開く。目の前の赤が追いかけて、捕まえる。餌を求めて水面をさ迷う魚のようだと思った。捕まれば待っているのはあつい熱の渦。思考ごと浚われて波に呑まれていく。

「……っ、は、」

ようやく解放されて、開いたままの口から無心で酸素を取り込んだ。長い指先がそっと触れて、濡れた唇の端を拭っていく。指先からすらも彼の鼓動が伝わるようだった、けれど耳奥に響いたのは自分のそれ。どくり、熱が上がる。ぼやけた視界に映り込む翠が、同等の熱さを帯びて僕を捉えた。

「…何、」

するんですか、という抗議の声は放たれる前に喉の奥に消えた。腰を引き寄せられて思わず息を詰めた瞬間に、再び口を塞がれる。挨拶代わりの接触と呼ぶには程遠い感覚だった。隙間から差し込まれた舌が口内を貪る。縋る手が、あつい。
身体の輪郭を辿っていく指先につられて漏らしそうになる声を、慌てて口を引き結ぶことで抑え込んだ。別にいいのに、と喉奥で笑ったその赤い髪が頬を掠めていく。そう、いつもこんなふうに、耳朶を甘噛みされて、ゆっくりと項を撫で上げられて、そうして僕は少しずつ重心を失っていく。

掠れた声が僕の名を呼んだ。こういう時は特段返答を要求されてはいないのを知っている。きっと僕は、熱に浮かされたような目で無意識に煽っているんだろう、彼を。どうしようもなくなった熱を持て余して、欲にまかせて彼の肩に縋って、



「―――ラビ、」

彼の唇の端が満足げに持ち上がるのを見届けて、白いシーツに沈む。軋むベッドの音にすら煽られて、少しずつ理性を手放して、目の眩むような熱に流されて。事後の気怠さを厭う余裕など、考えるだけ無惨に掻き消えていく。

「なに?」

慈しむような手つきで、けれど濃密な色を秘めた温度で、彼の掌が触れる。額に、頬に、首筋と胸板を通って、そうしていつもの所へ。このまま彼の温度で溶けてしまえればどんなにいいだろう。霞んだふりをしただけの歪んだ思考、きっと彼にそれを伝えることはないのだろうけれど。
かわりに伸ばした腕を彼の首に絡めて、もっとと囁いた。一瞬瞠目した彼の翠を網膜に焼きつけて、そうして僕は瞼を閉じてもう一度キスを請う。

手に入れれば満足だなんて、そんな子供じみた欲求は知らない。

メ ル ト

(2008.12) [ × ]