53夜/スーマン編
脈打つ血流を思わせるような腕がどす黒く変色していく様を呆然と見ていた。刹那、割れるような激痛が神経を走り抜け脳を揺さぶる。不自然に引きつり激しく痙攣する腕を押さえる事も出来ずに、ただ声をあげるしかなかった。見上げた空は爆煙に霞んで赤黒く淀んでいた。

痛い、痛い、痛い、

ただ、叫んだ。終わりなく続く破壊の中で、枯れる程叫んだ。けれどそれは周囲の轟音の中に虚しく掻き消えていくだけ、絶望、死、この場を取り巻く負のすべてに頭の中が焼けるようだった。眼前の白い巨体がぐらり大きく傾き、また一つ、破滅の光が大地を走る。

もう、止められないのか。

家屋の崩れ落ちる音がする。どれだけの人が犠牲になったのだろう。これが、神の裁きだというのか。生きたいと願いお前に背いたこの罪は、一人の人間によって贖われ得るものではないというのか。

同じ、なのだ。
たった一つ、捨てられないもののために悪魔に身を売り渡した。ただ、あの時僕は呪いの印を刻まれながらもこの身に宿した力によって生かされた。彼は、その力によって今滅ぼされようとしている。あんなにも生きたいと願っていたのに。今生きている僕なんかよりもずっと。
僕が彼を責められる筈もなかった。

左手の甲がじくじくと痛む。神経が浮き立ち、腕が震えていた。左肩から先の組織とは自分の意思を共有することが出来ない。

―――壊れてしまう、誰か、

彼を、止めて。

力を失った両膝が地を叩く音が鈍く耳に響く。
僕に残された半分の世界からすらも、色が失われていくのを感じた。

届かぬゲツセマネの祈り

(2005.07) [ × ]